た。
「何しろ夜|寐《ね》ないんだから、身体《からだ》に障ってね」
 彼はよく風邪《かぜ》を引いて咳嗽《せき》をした。ある時は熱も出た。するとその熱が必ず肺病の前兆でなければならないように彼を脅かした。
 実際彼の職業は強壮な青年にとっても苦しい性質のものに違なかった。彼は隔晩に局へ泊らせられた。そうして夜通し起きて働らかなければならなかった。翌日《あくるひ》の朝彼はぼんやりして自分の宅《うち》へ帰って来た。その日一日は何をする勇気もなく、ただぐたりと寐て暮らす事さえあった。
 それでも彼は自分のためまた家族のために働らくべく余儀なくされた。
「今度《こんだ》は少し危険《あぶな》いようだから、誰かに頼んでくれないか」
 改革とか整理とかいう噂《うわさ》のあるたびに、健三はよくこんな言葉を彼の口から聞かされた。東京を離れている時などは、わざわざ手紙で依頼して来た事も一返や二返ではなかった。彼はその都度《つど》誰それにといって、わざわざ要路の人を指名した。しかし健三にはただ名前が知れているだけで、自分の兄の位置を保証してもらうほどの親しみのあるものは一人もなかった。健三は頬杖《ほおづえ》を
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