で感服した事がある。記行文であったけれども普通の小説よりも面白いと思った。氏はまだ若い人である。しかも若い人に似合わず落ち付き払って、行くべき路を行って、少しも時好を追わない。是はわざと流行に反対したの何のという六《む》ずかしい意味ではなくて、氏には本来芸術的な一片の性情があって、氏はただ其性情に従うの外《ほか》、他を顧《かえり》みる暇を有《も》たないのである。余は其態度を床《ゆか》しく思った。
尤《もっと》も今度|載《の》せる「土」の出来栄《できばえ》は、今から先を見越した様な予言が出来る程進行していない。最初余から交渉した時、節氏は自分の責任の重いのを気遣《きづか》って長い間返事を寄こさなかった。夫《それ》から漸《ようや》く遣《や》って見様という挨拶《あいさつ》が来た。夫から四十枚程原稿が来た。予告は此原稿と、氏の書信によって、草平氏が書いた。今の所余は「土」の一篇がうまく成功する事を氏のために、読者のために、且《かつ》新聞のために祈るのみである。
有名な英国の碩学《せきがく》ミルは若い時、同じく若いテニソンをロンドン・リポジトリ紙上に紹介して、猶《なお》其次号にブラウニングを
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