いたのであります。すべて政治家なり文学者なりあるいは実業家なりを比較する場合に誰より誰の方が偉いとか優《まさ》っているとか云って、一概に上下の区別を立てようとするのはたいていの場合においてその道に暗い素人《しろうと》のやる事であります。専門の智識が豊かでよく事情が精《くわ》しく分っていると、そう手短かに纏《まと》めた批評を頭の中に貯えて安心する必要もなく、また批評をしようとすれば複雑な関係が頭に明暸《めいりょう》に出てくるからなかなか「甲より乙が偉い」という簡潔な形式によって判断が浮んで来ないのであります。幼稚な智識をもった者、没分暁漢《ぼつぶんぎょうかん》あるいは門外漢になると知らぬ事を知らないですましているのが至当であり、また本人もそのつもりで平気でいるのでしょうが、どうも処世上の便宜からそう無頓着《むとんじゃく》でいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇《ものずき》にせよ問題の要点だけは胸に畳み込んでおく方が心丈夫なので、とかく最後の判断のみを要求したがります。さてその最後の判断と云えば善悪とか優劣とかそう範疇《はんちゅう》はたくさんないのですが無理にもこの尺度に合うようにどんな
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