らすでに創作家と云う名を受けて、官吏とか商人とか、法律家とかから区別される以上は、この名称は単に鈴木とか、山田とか云う空名と見る訳には行かない。内実においてそれ相当の特性があって他の職業と区別されているのかも知れない。だから、この人々の立場を研究して見たらば、多少の御参考になりはすまいかと思ってこの演題を掲げた訳であります。
 そこで、この問題を研究するの方法について述べますと、第一には歴史的の研究があります。これは創作家の世界観の纏《まとま》ってあらわれた著作そのものを比較して、その特性を綜合《そうごう》した上で、これに一種の名称(自然派とか浪漫派とか)を与えて、それから年代を追ってその発展を迹《あと》づけるのであります。いわゆる文学史であります。この間中からして、日本で大分自然派の論が盛になりましていろいろの雑誌にその説明などがたくさん出て、私なども大分利益を受けました。我々日本人が仏蘭西《フランス》の自然派はこう発達したの、独乙《ドイツ》の自然派は今こんな具合だのという事を承知したのは、全くこの歴史研究の御蔭《おかげ》で至極《しごく》結構な事と思います。
 ただこの種の研究につい
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