妙な矛盾を感ずる。小供のかいた画を見るとこの心持ちが思い切って正直に出ています。これもこの際都合のいいように翻訳して云いますと、吾々が手や足の長さに対する態度はちゃんと申し合せたように一致していると云う事になります。
 してみると世界は観様《みよう》でいろいろに見られる。極端に云えば人々《にんにん》個々別々の世界を持っていると云っても差支《さしつかえ》ない。同時にその世界のある部分は誰が見ても一様である。始めから相談して、こう見ようじゃありませんかと、規約の束縛を冥々《めいめい》のうちに受けている。そこで人間の頭が複雑になればなるほど、観察される事物も複雑になって来る。複雑になるんではないが、単純なものを複雑な頭でいろいろに見るから、つまりは物自身が複雑に変化すると同様の結果に陥《おちい》るのであります。これを前の言葉に戻して云うと、世が進むに従って、複雑な世界と複雑な世界観ができて、そうして一方ではこの複雑なものが統一される区域も拡《ひろ》がって来るのであります。
 そこで創作家も一種の人間でありますから各々《めいめい》勝手な世界観を持って、勝手な世界を眺めているに違ない。しかしなが
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