でおりますが、困る事には多少の写実的分子も交っているのです。ところが写実主義というものは別に旗幟《きし》を翻《ひる》がえして浪漫派の向《むこう》を張ってるんだから、両々対立の勢のためにせっかくスコットのもっている写実的分子を引き抜いて写実派の中へ入れてやる事ができなくなってしまう。また写実派の中に散見し得る浪漫的分子を切り放して、浪漫派の中に入れる事も困難になってしまう。そこでこの名称のために誤まられて彼らの作品は精製した金や銀のように純粋な性質で自然に存在していると思うようになります。ところが実際は大概まざりものなのであります。だから本来を云うなら、ここに浪漫主義なら浪漫主義、自然主義なら自然主義の定義があって、何人の作物でも構わないからして、この定義に叶《かな》っただけを持って来てこの主義のうちへ打《ぶ》ち込むのが当然であろうと思われます。例えば白なら白と云う属性の概念があって、白墨、白紙、白旗、雪などという出来上ったもののうちから白と云う属性だけを引き抜いてこの概念の下に詰め込むのが至当でありましょう。しかるにただ色だけが白いからと云って、色の白いものは形や質や温度その他のいかん
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