に関せずことごとく白のうちへ入れて、しかも外へ出る事を許さなかったら、統一のできるのは白という属性だけであるにも関せず、人はすべての点において統一されているかのごとく誤解を抱《いだ》くのであります。白いものは白で区別しても差《さ》し支《つかえ》ないから、これと同時に、形や質の点においても区別して、一個の具体を二重にも三重にも融通の利《き》くように取り扱わなくっては真相には達せられんはずであります。また一例を云うと、ここに一人の男がある。この人は学校へ出る。その時には教師の仲間へ入れて見なければなりません。筆を執《と》る。その時には著作家の群《むれ》に伍《ご》するものと認めるのが至当であります。家へ帰る。すると夫とも親ともして種類別をしなければならない。この人は一人であるけれどもこれほどの種類へ編入される資格があるのであります。作物もその通りであります。これを分解し、これを綜合《そうごう》して、同一物のある部分を各適当な主義に編入するのが穏当《おんとう》であります。そんな錯雑した作物がないと云うのは過去の歴史だけを眼中に置いた議論でこれから先に作物の性質が、どのくらいに複雑な性質をかねて
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