分りやすい事でありますから、その辺はどうでも構いません。また一般に申して西洋の方が進んでいるから万事手本にするんだと言う人があっても構いません。私も至極《しごく》御同感であります。ただ歴史の解釈を私のようにした上で、西洋を手本にしたら間違が少なかろうと思うのであります。そうしないと弊が出てくる。そうしてその弊に陥《おちい》って悟らずにいる事があります。
 たとえば十九世紀の前半に英国にスコットなる人があらわれて、たくさん小説をかきました。この人の作が一時期を画するような新現象であるために世人はこれをロマンチシズムの代表者と見傚《みな》しました。それで差し支ないのですけれども、一度こういう風に推《お》し立てられると、スコットは浪漫主義で浪漫主義はスコットであると云う風にアイデンチファイされるようになります。アイデンチファイされると、スコットの作に見《あら》われた要素はことごとく浪漫主義を構成するに必要でかつ充分(necessary and sufficient)なものと認められます。なるほどスコットの作中には中世主義もあります、冒険談もあります。種々な意味に解釈される浪漫主義の特色を含ん
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