ゥら、御よしなせえ。けんのんだ」
「おれは大丈夫だが、どんな証拠があるんだい」
「おかしな話しさね。まあゆっくり、煙草《たばこ》でも呑《の》んで御出《おいで》なせえ話すから。――頭あ洗いましょうか」
「頭はよそう」
「頭垢《ふけ》だけ落して置くかね」
 親方は垢《あか》の溜《たま》った十本の爪を、遠慮なく、余が頭蓋骨《ずがいこつ》の上に並べて、断わりもなく、前後に猛烈なる運動を開始した。この爪が、黒髪の根を一本ごとに押し分けて、不毛の境《きょう》を巨人の熊手《くまで》が疾風の速度で通るごとくに往来する。余が頭に何十万本の髪の毛が生《は》えているか知らんが、ありとある毛がことごとく根こぎにされて、残る地面がべた一面に蚯蚓腫《めめずばれ》にふくれ上った上、余勢が地磐《じばん》を通して、骨から脳味噌《のうみそ》まで震盪《しんとう》を感じたくらい烈《はげ》しく、親方は余の頭を掻き廻わした。
「どうです、好い心持でしょう」
「非常な辣腕《らつわん》だ」
「え? こうやると誰でもさっぱりするからね」
「首が抜けそうだよ」
「そんなに倦怠《けったる》うがすかい。全く陽気の加減だね。どうも春てえ奴《や
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