狽アこから2字下げ]
Might I look on thee in death,
With bliss I would yield my breath.
[#ここで字下げ終わり]
と云う二句さえ、付け加えたかも知れぬ。幸い、普通ありふれた、恋とか愛とか云う境界《きょうがい》はすでに通り越して、そんな苦しみは感じたくても感じられない。しかし今の刹那《せつな》に起った出来事の詩趣はゆたかにこの五六行にあらわれている。余と銀杏返しの間柄《あいだがら》にこんな切《せつ》ない思《おもい》はないとしても、二人の今の関係を、この詩の中《うち》に適用《あてはめ》て見るのは面白い。あるいはこの詩の意味をわれらの身の上に引きつけて解釈しても愉快だ。二人の間には、ある因果《いんが》の細い糸で、この詩にあらわれた境遇の一部分が、事実となって、括《くく》りつけられている。因果もこのくらい糸が細いと苦《く》にはならぬ。その上、ただの糸ではない。空を横切る虹《にじ》の糸、野辺《のべ》に棚引《たなび》く霞《かすみ》の糸、露《つゆ》にかがやく蜘蛛《くも》の糸。切ろうとすれば、すぐ切れて、見ているうちは勝《すぐ》れてう
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