ィさき真闇《まっくら》に盲動《もうどう》する汽車はあぶない標本の一つである。
 停車場《ステーション》前の茶店に腰を下ろして、蓬餅《よもぎもち》を眺《なが》めながら汽車論を考えた。これは写生帖へかく訳にも行かず、人に話す必要もないから、だまって、餅を食いながら茶を飲む。
 向うの床几《しょうぎ》には二人かけている。等しく草鞋穿《わらじば》きで、一人は赤毛布《あかげっと》、一人は千草色《ちくさいろ》の股引《ももひき》の膝頭《ひざがしら》に継布《つぎ》をあてて、継布のあたった所を手で抑えている。
「やっぱり駄目かね」
「駄目さあ」
「牛のように胃袋が二つあると、いいなあ」
「二つあれば申し分はなえさ、一つが悪《わ》るくなりゃ、切ってしまえば済むから」
 この田舎者《いなかもの》は胃病と見える。彼らは満洲の野に吹く風の臭《にお》いも知らぬ。現代文明の弊《へい》をも見認《みと》めぬ。革命とはいかなるものか、文字さえ聞いた事もあるまい。あるいは自己の胃袋が一つあるか二つあるかそれすら弁じ得んだろう。余は写生帖を出して、二人の姿を描《か》き取った。
 じゃらんじゃらんと号鈴《ベル》が鳴る。切符《き
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