S柵外にも自由を擅にしたくなるのは自然の勢《いきおい》である。憐《あわれ》むべき文明の国民は日夜にこの鉄柵に噛《か》みついて咆哮《ほうこう》している。文明は個人に自由を与えて虎《とら》のごとく猛《たけ》からしめたる後、これを檻穽《かんせい》の内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある。この平和は真の平和ではない。動物園の虎が見物人を睨《にら》めて、寝転《ねころ》んでいると同様な平和である。檻《おり》の鉄棒が一本でも抜けたら――世はめちゃめちゃになる。第二の仏蘭西革命《フランスかくめい》はこの時に起るのであろう。個人の革命は今すでに日夜《にちや》に起りつつある。北欧の偉人イブセンはこの革命の起るべき状態についてつぶさにその例証を吾人《ごじん》に与えた。余は汽車の猛烈に、見界《みさかい》なく、すべての人を貨物同様に心得て走る様《さま》を見るたびに、客車のうちに閉《と》じ籠《こ》められたる個人と、個人の個性に寸毫《すんごう》の注意をだに払わざるこの鉄車《てっしゃ》とを比較して、――あぶない、あぶない。気をつけねばあぶないと思う。現代の文明はこのあぶないで鼻を衝《つ》かれるくらい充満している。
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