チぷ》はすでに買うてある。
「さあ、行きましょ」と那美さんが立つ。
「どうれ」と老人も立つ。一行は揃《そろ》って改札場《かいさつば》を通り抜けて、プラットフォームへ出る。号鈴《ベル》がしきりに鳴る。
 轟《ごう》と音がして、白く光る鉄路の上を、文明の長蛇《ちょうだ》が蜿蜒《のたくっ》て来る。文明の長蛇は口から黒い煙を吐く。
「いよいよ御別かれか」と老人が云う。
「それでは御機嫌《ごきげん》よう」と久一さんが頭を下げる。
「死んで御出《おい》で」と那美さんが再び云う。
「荷物は来たかい」と兄さんが聞く。
 蛇は吾々《われわれ》の前でとまる。横腹の戸がいくつもあく。人が出たり、這入《はい》ったりする。久一さんは乗った。老人も兄さんも、那美さんも、余もそとに立っている。
 車輪が一つ廻れば久一さんはすでに吾らが世の人ではない。遠い、遠い世界へ行ってしまう。その世界では煙硝《えんしょう》の臭《にお》いの中で、人が働いている。そうして赤いものに滑《すべ》って、むやみに転《ころ》ぶ。空では大きな音がどどんどどんと云う。これからそう云う所へ行く久一さんは車のなかに立って無言のまま、吾々を眺《なが》め
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