サんな平気な事で、軍《いく》さが出来るかい」と女は、委細《いさい》構わず、白い顔を久一さんの前へ突き出す。久一さんと、兄さんがちょっと眼を見合せた。
「那美さんが軍人になったらさぞ強かろう」兄さんが妹に話しかけた第一の言葉はこれである。語調から察すると、ただの冗談《じょうだん》とも見えない。
「わたしが? わたしが軍人? わたしが軍人になれりゃとうになっています。今頃は死んでいます。久一さん。御前も死ぬがいい。生きて帰っちゃ外聞《がいぶん》がわるい」
「そんな乱暴な事を――まあまあ、めでたく凱旋《がいせん》をして帰って来てくれ。死ぬばかりが国家のためではない。わしもまだ二三年は生きるつもりじゃ。まだ逢《あ》える」
老人の言葉の尾を長く手繰《たぐる》と、尻が細くなって、末は涙の糸になる。ただ男だけにそこまではだま[#「だま」に傍点]を出さない。久一さんは何も云わずに、横を向いて、岸の方を見た。
岸には大きな柳がある。下に小さな舟を繋《つな》いで、一人の男がしきりに垂綸《いと》を見詰めている。一行の舟が、ゆるく波足《なみあし》を引いて、その前を通った時、この男はふと顔をあげて、久一さん
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