チた。

        十三

 川舟《かわふね》で久一さんを吉田の停車場《ステーション》まで見送る。舟のなかに坐ったものは、送られる久一さんと、送る老人と、那美さんと、那美さんの兄さんと、荷物の世話をする源兵衛と、それから余である。余は無論|御招伴《おしょうばん》に過ぎん。
 御招伴でも呼ばれれば行く。何の意味だか分らなくても行く。非人情の旅に思慮は入らぬ。舟は筏《いかだ》に縁《ふち》をつけたように、底が平《ひら》たい。老人を中に、余と那美さんが艫《とも》、久一さんと、兄さんが、舳《みよし》に座をとった。源兵衛は荷物と共に独《ひと》り離れている。
「久一さん、軍《いく》さは好きか嫌いかい」と那美さんが聞く。
「出て見なければ分らんさ。苦しい事もあるだろうが、愉快な事も出て来るんだろう」と戦争を知らぬ久一さんが云う。
「いくら苦しくっても、国家のためだから」と老人が云う。
「短刀なんぞ貰うと、ちょっと戦争に出て見たくなりゃしないか」と女がまた妙な事を聞く。久一さんは、
「そうさね」
と軽《かろ》く首肯《うけが》う。老人は髯《ひげ》を掀《かか》げて笑う。兄さんは知らぬ顔をしている。

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