A画《え》なきもの、芸術のたしなみなきものよりは、美くしき所作が出来る。人情世界にあって、美くしき所作は正である、義である、直である。正と義と直を行為の上において示すものは天下の公民の模範である。
 しばらく人情界を離れたる余は、少なくともこの旅中《りょちゅう》に人情界に帰る必要はない。あってはせっかくの旅が無駄になる。人情世界から、じゃりじゃりする砂をふるって、底にあまる、うつくしい金《きん》のみを眺めて暮さなければならぬ。余|自《みずか》らも社会の一員をもって任じてはおらぬ。純粋なる専門画家として、己《おの》れさえ、纏綿《てんめん》たる利害の累索《るいさく》を絶って、優《ゆう》に画布裏《がふり》に往来している。いわんや山をや水をや他人をや。那美さんの行為動作といえどもただそのままの姿と見るよりほかに致し方がない。
 三丁ほど上《のぼ》ると、向うに白壁の一構《ひとかまえ》が見える。蜜柑《みかん》のなかの住居《すまい》だなと思う。道は間もなく二筋に切れる。白壁を横に見て左りへ折れる時、振り返ったら、下から赤い腰巻《こしまき》をした娘が上《あが》ってくる。腰巻がしだいに尽きて、下から茶色
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