「でかい」
「おられる。何しにござった」
「温泉にいる画工《えかき》が来たと、取次《とりつい》でおくれ」
「画工さんか。それじゃ御上《おあが》り」
「断わらないでもいいのかい」
「よろしかろ」
 余は下駄を脱いで上がる。
「行儀がわるい画工さんじゃな」
「なぜ」
「下駄を、よう御揃《おそろ》えなさい。そらここを御覧」と紙燭を差しつける。黒い柱の真中に、土間から五尺ばかりの高さを見計《みはから》って、半紙を四つ切りにした上へ、何か認《したた》めてある。
「そおら。読めたろ。脚下《きゃっか》を見よ、と書いてあるが」
「なるほど」と余は自分の下駄を丁寧に揃える。
 和尚の室《へや》は廊下を鍵《かぎ》の手《て》に曲《まが》って、本堂の横手にある。障子《しょうじ》を恭《うやうや》しくあけて、恭しく敷居越しにつくばった了念が、
「あのう、志保田《しほだ》から、画工さんが来られました」と云う。はなはだ恐縮の体《てい》である。余はちょっとおかしくなった。
「そうか、これへ」
 余は了念と入れ代る。室がすこぶる狭い。中に囲炉裏《いろり》を切って、鉄瓶《てつびん》が鳴る。和尚は向側に書見《しょけん》をして
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