B恨《うらみ》? 恨でも春恨《しゅんこん》とか云う、詩的のものならば格別、ただの恨では余り俗である。いろいろに考えた末、しまいにようやくこれだと気がついた。多くある情緒《じょうしょ》のうちで、憐《あわ》れと云う字のあるのを忘れていた。憐れは神の知らぬ情《じょう》で、しかも神にもっとも近き人間の情である。御那美さんの表情のうちにはこの憐れの念が少しもあらわれておらぬ。そこが物足らぬのである。ある咄嗟《とっさ》の衝動で、この情があの女の眉宇《びう》にひらめいた瞬時に、わが画《え》は成就《じょうじゅ》するであろう。しかし――いつそれが見られるか解らない。あの女の顔に普段充満しているものは、人を馬鹿にする微笑《うすわらい》と、勝とう、勝とうと焦《あせ》る八の字のンである。あれだけでは、とても物にならない。
 がさりがさりと足音がする。胸裏《きょうり》の図案は三|分《ぶ》二で崩《くず》れた。見ると、筒袖《つつそで》を着た男が、背《せ》へ薪《まき》を載《の》せて、熊笹《くまざさ》のなかを観海寺の方へわたってくる。隣りの山からおりて来たのだろう。
「よい御天気で」と手拭《てぬぐい》をとって挨拶《あい
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