tには、ただ愛らしい気持ちがする。椿の沈んでいるのは全く違う。黒ずんだ、毒気のある、恐ろし味《み》を帯びた調子である。この調子を底に持って、上部《うわべ》はどこまでも派出に装《よそお》っている。しかも人に媚《こ》ぶる態《さま》もなければ、ことさらに人を招く様子も見えぬ。ぱっと咲き、ぽたりと落ち、ぽたりと落ち、ぱっと咲いて、幾百年の星霜《せいそう》を、人目にかからぬ山陰に落ちつき払って暮らしている。ただ一眼《ひとめ》見たが最後! 見た人は彼女の魔力から金輪際《こんりんざい》、免《のが》るる事は出来ない。あの色はただの赤ではない。屠《ほふ》られたる囚人《しゅうじん》の血が、自《おの》ずから人の眼を惹《ひ》いて、自から人の心を不快にするごとく一種異様な赤である。
 見ていると、ぽたり赤い奴が水の上に落ちた。静かな春に動いたものはただこの一輪である。しばらくするとまたぽたり落ちた。あの花は決して散らない。崩《くず》れるよりも、かたまったまま枝を離れる。枝を離れるときは一度に離れるから、未練《みれん》のないように見えるが、落ちてもかたまっているところは、何となく毒々しい。またぽたり落ちる。ああや
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