A軽快な感じはない。ことにこの椿は岩角《いわかど》を、奥へ二三間|遠退《とおの》いて、花がなければ、何があるか気のつかない所に森閑《しんかん》として、かたまっている。その花が! 一日|勘定《かんじょう》しても無論勘定し切れぬほど多い。しかし眼がつけば是非勘定したくなるほど鮮《あざや》かである。ただ鮮かと云うばかりで、いっこう陽気な感じがない。ぱっと燃え立つようで、思わず、気を奪《と》られた、後《あと》は何だか凄《すご》くなる。あれほど人を欺《だま》す花はない。余は深山椿《みやまつばき》を見るたびにいつでも妖女《ようじょ》の姿を連想する。黒い眼で人を釣り寄せて、しらぬ間に、嫣然《えんぜん》たる毒を血管に吹く。欺《あざむ》かれたと悟《さと》った頃はすでに遅い。向う側の椿が眼に入《い》った時、余は、ええ、見なければよかったと思った。あの花の色はただの赤ではない。眼を醒《さま》すほどの派出《はで》やかさの奥に、言うに言われぬ沈んだ調子を持っている。悄然《しょうぜん》として萎《しお》れる雨中《うちゅう》の梨花《りか》には、ただ憐れな感じがする。冷やかに艶《えん》なる月下《げっか》の海棠《かいどう
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