tけた。
「ワハハハハ。そうよ、この蓋《ふた》はあまり安っぽいようだな」と和尚《おしょう》はたちまち余に賛成した。
若い男は気の毒そうに、老人の顔を見る。老人は少々不機嫌の体《てい》に蓋を払いのけた。下からいよいよ硯《すずり》が正体《しょうたい》をあらわす。
もしこの硯について人の眼を峙《そばだ》つべき特異の点があるとすれば、その表面にあらわれたる匠人《しょうじん》の刻《こく》である。真中《まんなか》に袂時計《たもとどけい》ほどな丸い肉が、縁《ふち》とすれすれの高さに彫《ほ》り残されて、これを蜘蛛《くも》の背《せ》に象《かた》どる。中央から四方に向って、八本の足が彎曲《わんきょく》して走ると見れば、先には各《おのおの》※[#「句+鳥」、第3水準1−94−56]※[#「谷+鳥」、第3水準1−94−60]眼《くよくがん》を抱《かか》えている。残る一個は背の真中に、黄《き》な汁《しる》をしたたらしたごとく煮染《にじ》んで見える。背と足と縁を残して余る部分はほとんど一寸余の深さに掘り下げてある。墨を湛《たた》える所は、よもやこの塹壕《ざんごう》の底ではあるまい。たとい一合の水を注ぐともこの
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