「ているところから察すると、上方《かみがた》の検校《けんぎょう》さんの地唄《じうた》にでも聴かれそうな太棹《ふとざお》かとも思う。
小供の時分、門前に万屋《よろずや》と云う酒屋があって、そこに御倉《おくら》さんと云う娘がいた。この御倉さんが、静かな春の昼過ぎになると、必ず長唄の御浚《おさら》いをする。御浚が始まると、余は庭へ出る。茶畠の十坪余りを前に控《ひか》えて、三本の松が、客間の東側に並んでいる。この松は周《まわ》り一尺もある大きな樹で、面白い事に、三本寄って、始めて趣のある恰好《かっこう》を形つくっていた。小供心にこの松を見ると好い心持になる。松の下に黒くさびた鉄灯籠《かなどうろう》が名の知れぬ赤石の上に、いつ見ても、わからず屋の頑固爺《かたくなじじい》のようにかたく坐っている。余はこの灯籠を見詰めるのが大好きであった。灯籠の前後には、苔《こけ》深き地を抽《ぬ》いて、名も知らぬ春の草が、浮世の風を知らぬ顔に、独《ひと》り匂うて独り楽しんでいる。余はこの草のなかに、わずかに膝《ひざ》を容《い》るるの席を見出して、じっと、しゃがむのがこの時分の癖であった。この三本の松の下に、この灯
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