sなむあみだぶつ》と回向《えこう》をする声が出るくらいなら、その声でおういおういと、半ばあの世へ足を踏み込んだものを、無理にも呼び返したくなる。仮《か》りの眠りから、いつの間《ま》とも心づかぬうちに、永い眠りに移る本人には、呼び返される方が、切れかかった煩悩《ぼんのう》の綱をむやみに引かるるようで苦しいかも知れぬ。慈悲だから、呼んでくれるな、穏《おだや》かに寝かしてくれと思うかも知れぬ。それでも、われわれは呼び返したくなる。余は今度女の姿が入口にあらわれたなら、呼びかけて、うつつの裡《うち》から救ってやろうかと思った。しかし夢のように、三尺の幅を、すうと抜ける影を見るや否《いな》や、何だか口が聴《き》けなくなる。今度はと心を定めているうちに、すうと苦もなく通ってしまう。なぜ何とも云えぬかと考うる途端《とたん》に、女はまた通る。こちらに窺《うかが》う人があって、その人が自分のためにどれほどやきもき思うているか、微塵《みじん》も気に掛からぬ有様で通る。面倒にも気の毒にも、初手《しょて》から、余のごときものに、気をかねておらぬ有様で通る。今度は今度はと思うているうちに、こらえかねた、雲の層が
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