A第3水準1−93−75]《かんせい》の態度で、有《う》と無《む》の間《あいだ》に逍遥《しょうよう》しているのだろう。女のつけた振袖に、紛《ふん》たる模様の尽きて、是非もなき磨墨《するすみ》に流れ込むあたりに、おのが身の素性《すじょう》をほのめかしている。
 またこう感じた。うつくしき人が、うつくしき眠りについて、その眠りから、さめる暇もなく、幻覚《うつつ》のままで、この世の呼吸《いき》を引き取るときに、枕元に病《やまい》を護《まも》るわれらの心はさぞつらいだろう。四苦八苦を百苦に重ねて死ぬならば、生甲斐《いきがい》のない本人はもとより、傍《はた》に見ている親しい人も殺すが慈悲と諦《あき》らめられるかも知れない。しかしすやすやと寝入る児に死ぬべき何の科《とが》があろう。眠りながら冥府《よみ》に連れて行かれるのは、死ぬ覚悟をせぬうちに、だまし打ちに惜しき一命を果《はた》すと同様である。どうせ殺すものなら、とても逃《のが》れぬ定業《じょうごう》と得心もさせ、断念もして、念仏を唱《とな》えたい。死ぬべき条件が具《そな》わらぬ先に、死ぬる事実のみが、ありありと、確かめらるるときに、南無阿弥陀仏
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