ハった。はてな。
 余が眼を転じて、入口を見たときは、奇麗なものが、すでに引き開けた襖の影に半分かくれかけていた。しかもその姿は余が見ぬ前から、動いていたものらしく、はっと思う間に通り越した。余は詩をすてて入口を見守る。
 一分と立たぬ間に、影は反対の方から、逆にあらわれて来た。振袖姿《ふりそですがた》のすらりとした女が、音もせず、向う二階の椽側《えんがわ》を寂然《じゃくねん》として歩行《あるい》て行く。余は覚えず鉛筆を落して、鼻から吸いかけた息をぴたりと留めた。
 花曇《はなぐも》りの空が、刻一刻に天から、ずり落ちて、今や降ると待たれたる夕暮の欄干《らんかん》に、しとやかに行き、しとやかに帰る振袖の影は、余が座敷から六|間《けん》の中庭を隔てて、重き空気のなかに蕭寥《しょうりょう》と見えつ、隠れつする。
 女はもとより口も聞かぬ。傍目《わきめ》も触《ふ》らぬ。椽《えん》に引く裾《すそ》の音さえおのが耳に入らぬくらい静かに歩行《ある》いている。腰から下にぱっと色づく、裾模様《すそもよう》は何を染め抜いたものか、遠くて解《わ》からぬ。ただ無地《むじ》と模様のつながる中が、おのずから暈《ぼ
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