D随芳草長。閑花落空庭。素琴横虚堂。※[#「虫+蕭」、第4水準2−87−94]蛸掛不動。篆煙繞竹梁。
[#ここで字下げ終わり]
と云う六句だけ出来た。読み返して見ると、みな画になりそうな句ばかりである。これなら始めから、画にすればよかったと思う。なぜ画よりも詩の方が作り易《やす》かったかと思う。ここまで出たら、あとは大した苦もなく出そうだ。しかし画に出来ない情《じょう》を、次には咏《うた》って見たい。あれか、これかと思い煩《わずら》った末とうとう、
[#ここから2字下げ]
独坐無隻語。方寸認微光。人間徒多事。此境孰可忘。会得一日静。正知百年忙。遐懐寄何処。緬※[#「しんにょう+貌」、第3水準1−92−58]白雲郷。
[#ここで字下げ終わり]
と出来た。もう一返《いっぺん》最初から読み直して見ると、ちょっと面白く読まれるが、どうも、自分が今しがた入《はい》った神境を写したものとすると、索然《さくぜん》として物足りない。ついでだから、もう一首作って見ようかと、鉛筆を握ったまま、何の気もなしに、入口の方を見ると、襖《ふすま》を引いて、開《あ》け放《はな》った幅三尺の空間をちらりと、奇麗な影が
前へ 次へ
全217ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング