硝子戸の中
夏目漱石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)硝子戸《ガラスど》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二枚|撮《と》って貰った。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]
−−

        一

 硝子戸《ガラスど》の中《うち》から外を見渡すと、霜除《しもよけ》をした芭蕉《ばしょう》だの、赤い実《み》の結《な》った梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来《こ》ない。書斎にいる私の眼界は極《きわ》めて単調でそうしてまた極めて狭いのである。
 その上私は去年の暮から風邪《かぜ》を引いてほとんど表へ出ずに、毎日この硝子戸の中にばかり坐《すわ》っているので、世間の様子はちっとも分らない。心持が悪いから読書もあまりしない。私はただ坐ったり寝たりしてその日その日を送っているだけである。
 しかし私の頭は時
次へ
全126ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング