て宅《うち》へ帰って来て、元気に飛び廻った。

        四

 日ならずして、彼は二三の友達を拵《こしら》えた。その中《うち》で最も親しかったのはすぐ前の医者の宅にいる彼と同年輩ぐらいの悪戯者《いたずらもの》であった。これは基督教徒《キリストきょうと》に相応《ふさわ》しいジョンという名前を持っていたが、その性質は異端者《いたんしゃ》のヘクトーよりも遥《はるか》に劣っていたようである。むやみに人に噛《か》みつく癖《くせ》があるので、しまいにはとうとう打《う》ち殺《ころ》されてしまった。
 彼はこの悪友を自分の庭に引き入れて勝手な狼藉《ろうぜき》を働らいて私を困らせた。彼らはしきりに樹の根を掘って用もないのに大きな穴を開《あ》けて喜んだ。綺麗《きれい》な草花の上にわざと寝転《ねころ》んで、花も茎も容赦《ようしゃ》なく散らしたり、倒したりした。
 ジョンが殺されてから、無聊《ぶりょう》な彼は夜遊《よあそ》び昼遊びを覚えるようになった。散歩などに出かける時、私はよく交番の傍《そば》に日向《ひなた》ぼっこをしている彼を見る事があった。それでも宅にさえいれば、よくうさん臭いものに吠《ほ》え
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