に、昨日《きのう》起った社会の変化を知って、そうして役所か会社へ行き着くと同時に、ポッケットに収めた新聞紙の事はまるで忘れてしまわなければならないほど忙がしいのだから。
 私は今これほど切りつめられた時間しか自由にできない人達の軽蔑《けいべつ》を冒《おか》して書くのである。
 去年から欧洲では大きな戦争が始まっている。そうしてその戦争がいつ済むとも見当《けんとう》がつかない模様である。日本でもその戦争の一小部分を引き受けた。それが済むと今度は議会が解散になった。来《きた》るべき総選挙は政治界の人々にとっての大切な問題になっている。米が安くなり過ぎた結果農家に金が入らないので、どこでも不景気だと零《こぼ》している。年中行事で云えば、春の相撲《すもう》が近くに始まろうとしている。要するに世の中は大変多事である。硝子戸の中にじっと坐っている私なぞはちょっと新聞に顔が出せないような気がする。私が書けば政治家や軍人や実業家や相撲狂《すもうきょう》を押《お》し退《の》けて書く事になる。私だけではとてもそれほどの胆力が出て来ない。ただ春に何か書いて見ろと云われたから、自分以外にあまり関係のないつまら
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