静な車輛《しゃりょう》のなかで、先年英国のエドワード帝を葬《ほうぶ》った時、五千人の卒倒者を出《いだ》した事などを思い出したりした。
 汽車を下りて車に乗った時から、秋の感じはなお強くなった。幌《ほろ》の間から見ると車の前にある山が青く濡《ぬ》れ切っている。その青いなかの切通《きりどお》しへ三人の車が静かにかかって行く。車夫は草鞋《わらじ》も足袋《たび》も穿《は》かずに素足《すあし》を柔かそうな土の上に踏みつけて、腰の力で車を爪先上《つまさきのぼ》りに引き上げる。すると左右を鎖《とざ》す一面の芒《すすき》の根から爽《さわや》かな虫の音《ね》が聞え出した。それが幌《ほろ》を打つ雨の音に打ち勝つように高く自分の耳に響いた時、自分はこの果《はて》しもない虫の音《ね》に伴《つ》れて、果しもない芒の簇《むらが》りを眼も及ばない遠くに想像した。そうしてそれを自分が今取り巻かれている秋の代表者のごとくに感じた。
 この青い秋のなかに、三人はまた真赤《まっか》な鶏頭《けいとう》を見つけた。その鮮《あざ》やかな色の傍《そば》には掛茶屋《かけぢゃや》めいた家があって、縁台の上に枝豆の殻《から》を干したまま
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