図々々《ぐずぐず》しているうちに、この己れに対する気の毒が凝結し始めて、体《てい》のいい往生《レシグネーション》となった。わるく云えば立ち腐れを甘んずる様になった。其癖《そのくせ》世間へ対しては甚《はなは》だ気※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64、306上−19]《きえん》が高い。何の高山の林公|抔《など》と思っていた。
その中、洋行しないかということだったので、自分なんぞよりももっとどうかした人があるだろうから、そんな人を遣《や》ったらよかろうと言うと、まアそんなに言わなくても行って見たら可いだろうとのことだったので、そんなら行って見ても可いと思って行った。然し留学中に段々文学がいやになった。西洋の詩などのあるものをよむと、全く感じない。それを無理に嬉《うれ》しがるのは、何だかありもしない翅《つばさ》を生《は》やして飛んでる人のような、金がないのにあるような顔して歩いて居る人のような気がしてならなかった。所へ池田菊苗君が独乙《ドイツ》から来て、自分の下宿へ留った。池田君は理学者だけれども、話して見ると偉い哲学者であったには驚いた。大分議論をやって大分やられた事を今に記憶
前へ
次へ
全9ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング