《こんにち》になって、過去を一攫《ひとつかみ》にして、眼の前に並べて見ると、アイロニーの一語はますます鮮やかに頭の中に拈出《ねんしゅつ》される。そうしていつの間にかこのアイロニーに一種の実感が伴って、両《ふた》つのものが互に纏綿《てんめん》して来た。鼬の町井さんも、梅の花も、支那水仙も、雑煮《ぞうに》も、――あらゆる尋常の景趣はことごとく消えたのに、ただ当時の自分と今の自分との対照だけがはっきりと残るためだろうか。



底本:「夏目漱石全集7」ちくま文庫、筑摩書房
   1988(昭和63年)年4月26日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月
入力:柴田卓治
校正:伊藤時也
1999年6月26日公開
2004年2月26日修正
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