の御土産《おみやげ》を届けてやるからと書いて、すぐ郵便で妻《さい》に出さした。子供は余が東京へ帰ってからも、平気で遊んでいる。修善寺の土産《みやげ》はもう壊してしまったろう。彼等が大きくなったとき父のこの文を読む機会がもしあったなら、彼等ははたしてどんな感じがするだろう。
[#ここから2字下げ]
傷心秋已到[#「傷心秋已到」に白丸傍点]。 嘔血骨猶存[#「嘔血骨猶存」に白丸傍点]。
病起期何日[#「病起期何日」に白丸傍点]。 夕陽還一村[#「夕陽還一村」に白丸傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

        二十六

 五十グラムと云うと日本の二勺半にしか当らない。ただそれだけの飲料で、この身体《からだ》を終日|持《も》ち応《こた》えていたかと思えば、自分ながら気の毒でもあるし、可愛《かわい》らしくもある。また馬鹿らしくもある。
 余は五十グラムの葛湯《くずゆ》を恭《うやう》やしく飲んだ。そうして左右の腕に朝夕《あさゆう》二回ずつの注射を受けた。腕は両方とも針の痕《あと》で埋《う》まっていた。医師は余に今日はどっちの腕にするかと聞いた。余はどっちにもしたくなかった。薬液を皿に溶いた
前へ 次へ
全144ページ中109ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング