子規の畫
夏目漱石
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)子規《しき》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)近頃|不圖《ふと》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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余は子規《しき》の描《か》いた畫《ゑ》をたつた一枚持つてゐる。亡友の記念《かたみ》だと思つて長い間それを袋の中に入れて仕舞つて置いた。年數《ねんすう》の經《た》つに伴《つ》れて、ある時は丸《まる》で袋の所在を忘れて打ち過ぎる事も多かつた。近頃|不圖《ふと》思ひ出して、あゝして置いては轉宅の際などに何處へ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へ遣《や》つて懸物《かけもの》にでも仕立てさせやうと云ふ氣が起つた。澁紙の袋を引き出して塵を拂《はた》いて中を檢《しら》べると、畫は元の儘|濕《しめ》つぽく四折《よつをり》に疊んであつた。畫の外に、無い
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