は散歩だか、貸家捜しだかわからないようにぶらぶらつぶしていた。三四郎にはほとんど合点《がてん》がいかない。与次郎はこれを解釈して、それは先生がいっしょだからさと言った。「元来先生が家を捜すなんて間違っている。けっして捜したことのない男なんだが、きのうはどうかしていたに違いない。おかげで佐竹の邸《やしき》でひどい目にしかられていい面《つら》の皮だ。――君どこかないか」と急に催促する。与次郎が来たのはまったくそれが目的らしい。よくよく原因を聞いてみると、今の持ち主が高利貸で、家賃をむやみに上げるのが、業腹《ごうはら》だというので、与次郎がこっちからたちのきを宣告したのだそうだ。それでは与次郎に責任があるわけだ。
「きょうは大久保まで行ってみたが、やっぱりない。――大久保といえば、ついでに宗八さんの所に寄って、よし子さんに会ってきた。かわいそうにまだ色光沢《いろつや》が悪い。――辣薑性《らっきょうせい》の美人――おっかさんが君によろしく言ってくれってことだ。しかしその後はあの辺も穏やかなようだ。轢死《れきし》もあれぎりないそうだ」
 与次郎の話はそれから、それへと飛んで行く。平生から締まりの
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