生ずる敬畏《けいい》の念を増した。そのうち人品のいいおじいさんの西洋人が戸をあけてはいってきて、流暢《りゅうちょう》な英語で講義を始めた。三四郎はその時 answer《アンサー》 という字はアングロ・サクソン語の and−swaru《アンド・スワル》 から出たんだということを覚えた。それからスコットの通った小学校の村の名を覚えた。いずれも大切に筆記帳にしるしておいた。その次には文学論の講義に出た。この先生は教室にはいって、ちょっと黒板《ボールド》をながめていたが、黒板の上に書いてある Geschehen《ゲシェーヘン》 という字と Nachbild《ナハビルド》 という字を見て、はあドイツ語かと言って、笑いながらさっさと消してしまった。三四郎はこれがためにドイツ語に対する敬意を少し失ったように感じた。先生は、それから古来文学者が文学に対して下した定義をおよそ二十ばかり並べた。三四郎はこれも大事に手帳に筆記しておいた。午後は大教室に出た。その教室には約七、八十人ほどの聴講者がいた。したがって先生も演説|口調《くちょう》であった。砲声一発|浦賀《うらが》の夢を破ってという冒頭《ぼうとう》で
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