る。移りやすい美しさを、移さずにすえておく手段が、もう尽きたと画家から注意されたように聞こえたからである。
なるほどそう思って見ると、どうかしているらしくもある。色光沢《いろつや》がよくない。目尻《めじり》にたえがたいものうさが見える。三四郎はこの活人画から受ける安慰の念を失った。同時にもしや自分がこの変化の原因ではなかろうかと考えついた。たちまち強烈な個性的の刺激が三四郎の心をおそってきた。移り行く美をはかなむという共通性の情緒《じょうしょ》はまるで影をひそめてしまった。――自分はそれほどの影響をこの女のうえに有しておる。――三四郎はこの自覚のもとにいっさいの己を意識した。けれどもその影響が自分にとって、利益か不利益かは未決の問題である。
その時原口さんが、とうとう筆をおいて、
「もうよそう。きょうはどうしてもだめだ」と言いだした。美禰子は持っていた団扇《うちわ》を、立ちながら床の上に落とした。椅子にかけた羽織を取って着ながら、こちらへ寄って来た。
「きょうは疲れていますね」
「私?」と羽織の裄《ゆき》をそろえて、紐《ひも》を結んだ。
「いやじつはぼくも疲れた。またあした天気の
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