フ上に置いた。マッチと灰皿《はいざら》がのっている。椅子《いす》もある。
「かけたまえ。――あれだ」と言って、かきかけた画布《カンバス》の方を見た。長さは六尺もある。三四郎はただ、
「なるほど大きなものですな」と言った。原口さんは、耳にも留めないふうで、
「うん、なかなか」とひとりごとのように、髪の毛と、背景の境の所を塗りはじめた。三四郎はこの時ようやく美禰子の方を見た。すると女のかざした団扇の陰で、白い歯がかすかに光った。
それから二、三分はまったく静かになった。部屋は暖炉《だんろ》で暖めてある。きょうは外面《そと》でも、そう寒くはない。風は死に尽した。枯れた木が音なく冬の日に包まれて立っている。三四郎は画室へ導かれた時、霞《かすみ》の中へはいったような気がした。丸テーブルに肱《ひじ》を持たして、この静かさの夜にまさる境に、はばかりなき精神《こころ》をおぼれしめた。この静かさのうちに、美禰子がいる。美禰子の影が次第にでき上がりつつある。肥《ふと》った画工の画筆《ブラッシ》だけが動く。それも目に動くだけで、耳には静かである。肥った画工も動くことがある。しかし足音はしない。
静かなも
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