ニった。

       一〇

 広田先生が病気だというから、三四郎が見舞いに来た。門をはいると、玄関に靴《くつ》が一足そろえてある。医者かもしれないと思った。いつものとおり勝手口へ回るとだれもいない。のそのそ上がり込んで茶の間へ来ると、座敷で話し声がする。三四郎はしばらくたたずんでいた。手にかなり大きな風呂敷包《ふろしきづつ》みをさげている。中には樽柿《たるがき》がいっぱいはいっている。今度来る時は、何か買ってこいと、与次郎の注意があったから、追分の通りで買って来た。すると座敷のうちで、突然どたりばたりという音がした。だれか組打ちを始めたらしい。三四郎は必定《ひつじょう》喧嘩《けんか》と思い込んだ。風呂敷包みをさげたまま、仕切りの唐紙《からかみ》を鋭どく一尺ばかりあけてきっとのぞきこんだ。広田先生が茶の袴《はかま》をはいた大きな男に組み敷かれている。先生は俯伏《うつぶ》しの顔をきわどく畳から上げて、三四郎を見たが、にやりと笑いながら、
「やあ、おいで」と言った。上の男はちょっと振り返ったままである。
「先生、失礼ですが、起きてごらんなさい」と言う。なんでも先生の手を逆に取って、肘《
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