烽「やというわけで、やむをえず短銃《ピストル》を買ってきた。買ってきて、まだ目的を遂行《すいこう》しないうちに、友だちが金を借りにきた。金はないと断ったが、ぜひどうかしてくれと訴えるので、しかたなしに、大事の短銃を貸してやった。友だちはそれを質に入れて一時をしのいだ。つごうがついて、質を受け出して返しにきた時は、肝心の短銃の主はもう死ぬ気がなくなっていた。だからこの男の命は金を借りにこられたために助かったと同じ事である。
「そういう事もあるからなあ」と与次郎が言った。三四郎にはただおかしいだけである。そのほかにはなんらの意味もない。高い月を仰いで大きな声を出して笑った。金を返されないでも愉快である。与次郎は、
「笑っちゃいかん」と注意した。三四郎はなおおかしくなった。
「笑わないで、よく考えてみろ。おれが金を返さなければこそ、君が美禰子さんから金を借りることができたんだろう」
「それで?」
「それだけでたくさんじゃないか。――君、あの女を愛しているんだろう」
与次郎はよく知っている。三四郎はふんと言って、また高い月を見た。月のそばに白い雲が出た。
「君、あの女には、もう返したのか」
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