ェ金を……」と三四郎から言いだした。
「わかってるの」と中途でとめた。三四郎も黙った。すると
「どうしておなくしになったの」と聞いた。
「馬券を買ったのです」
女は「まあ」と言った。まあと言ったわりに顔は驚いていない。かえって笑っている。すこしたって、「悪いかたね」とつけ加えた。三四郎は答えずにいた。
「馬券であてるのは、人の心をあてるよりむずかしいじゃありませんか。あなたは索引のついている人の心さえあててみようとなさらないのん気なかただのに」
「ぼくが馬券を買ったんじゃありません」
「あら。だれが買ったの」
「佐々木が買ったのです」
女は急に笑いだした。三四郎もおかしくなった。
「じゃ、あなたがお金がお入用《いりよう》じゃなかったのね。ばかばかしい」
「いることはぼくがいるのです」
「ほんとうに?」
「ほんとうに」
「だってそれじゃおかしいわね」
「だから借りなくってもいいんです」
「なぜ。おいやなの?」
「いやじゃないが、お兄《あに》いさんに黙って、あなたから借りちゃ、好くないからです」
「どういうわけで? でも兄は承知しているんですもの」
「そうですか。じゃ借りてもいい。――
前へ
次へ
全364ページ中240ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング