トいて前に蝋燭立《ろうそくたて》が二本ある。三四郎は左右の蝋燭立のまん中に自分の顔を写して見て、またすわった。
 すると奥の方でバイオリンの音がした。それがどこからか、風が持って来て捨てて行ったように、すぐ消えてしまった。三四郎は惜しい気がする。厚く張った椅子《いす》の背によりかかって、もう少しやればいいがと思って耳を澄ましていたが、音はそれぎりでやんだ。約一分もたつうちに、三四郎はバイオリンの事を忘れた。向こうにある鏡と蝋燭立をながめている。妙に西洋のにおいがする。それからカソリックの連想がある。なぜカソリックだか三四郎にもわからない。その時バイオリンがまた鳴った。今度は高い音《ね》と低い音が二、三度急に続いて響いた。それでぱったり消えてしまった。三四郎はまったく西洋の音楽を知らない。しかし今の音は、けっして、まとまったものの一部分をひいたとは受け取れない。ただ鳴らしただけである。その無作法にただ鳴らしたところが三四郎の情緒《じょうしょ》によく合った。不意に天から二、三|粒《つぶ》落ちて来た、でたらめの雹《ひょう》のようである。
 三四郎がなかば感覚を失った目を鏡の中に移すと、鏡の中
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