しょう」ともう大丈夫と思ったから言い放って、老人の気色《けしき》を伺うと
「やはり御承知か、原町にいる。あの娘もまだ嫁に行かんようだが。――御屋敷の御姫様《おひいさま》の御相手に時々来ます」
 占めた占めたこれだけ聞けば充分だ。一から十まで余が鑑定の通りだ。こんな愉快な事はない。寂光院はこの小野田の令嬢に違ない。自分ながらかくまで機敏な才子とは今まで思わなかった。余が平生主張する趣味の遺伝[#「趣味の遺伝」に傍点]と云う理論を証拠立てるに完全な例が出て来た。ロメオがジュリエットを一目見る、そうしてこの女に相違ないと先祖の経験を数十年の後《のち》に認識する。エレーンがランスロットに始めて逢う、この男だぞと思い詰める、やはり父母未生《ふもみしょう》以前に受けた記憶と情緒《じょうしょ》が、長い時間を隔《へだ》てて脳中に再現する。二十世紀の人間は散文的である。ちょっと見てすぐ惚《ほ》れるような男女を捕えて軽薄と云う、小説だと云う、そんな馬鹿があるものかと云う。馬鹿でも何でも事実は曲げる訳には行かぬ、逆《さ》かさにする訳にもならん。不思議な現象に逢《あ》わぬ前ならとにかく、逢《お》うた後《のち》
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