儀にもとらないだけの応対をするにすぎなかった。
 だから自分は驚いたのである。重吉があがらずせまらず、常と少しも違わない平面な調子で、あの人を妻《さい》にもらいたい、話してくれませんかと言った時には、君ほんとうかと実際聞き返したくらいであった。自分はすぐ重吉の挙止動作がふだんにたいていはまじめであるごとく、この問題に対してもまたまじめであるのを発見した。そうして過渡期の日本の社会道徳にそむいて、私の歩を相互に進めることなしに、意志の重みをはじめから監督者たる父母に寄せかけた彼の行ないぶりを快く感じた。そこで彼の依頼を引き受けた。
 さっそく妻をやって先方へ話をさせてみると、妻は女の母の挨拶だといって、妙な返事をもたらした。金はなくってもかまわないから道楽をしない保証のついた人でなければやらないというのである。そうしてなぜそんな注文を出すのか、いわれが説明としてその返事に伴っていた。
 女には一人の姉があって、その姉は二、三年まえすでにある資産家のところへ嫁に行った。今でも行っている。世間並みの夫婦として別にひとの注意をひくほどの波瀾《はらん》もなく、まず平穏に納まっているから、人目には
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