得意になって他を軽蔑《けいべつ》するのは誤っている。かかる立場から出来上った作物にはそれ相当の長所があると同時に短所もまた多く含まれている。作家は身辺の状況と天下の形勢に応じて時々その立場を変えねばならん。評家もまた眼界を広くして必要の場合には作物に対するごとにその見地を改めねば活きた批評はできまい。読者は無論の事、いろいろな種類のものを手に応じて賞翫《しょうがん》する趣味を養成せねば損であろう。余は先に「作物の批評」と題する一篇を草して批評すべき条項の複雑なる由を説明した。この篇は写生文を品評するに当ってその条項の一となるべき者を指摘してわが所論の応用を試みたものである。



底本:「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1988(昭和63)年7月26日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月に刊行
入力:柴田卓治
校正:大野晋
1999年9月15日公開
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