自転車日記
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)翻《ひるが》えして

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この際|唯一《ゆいいつ》の手段として

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)気※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]
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 西暦一千九百二年秋忘月忘日白旗を寝室の窓に翻《ひるが》えして下宿の婆さんに降を乞うや否や、婆さんは二十貫目の体躯《たいく》を三階の天辺《てっぺん》まで運び上げにかかる、運び上げるというべきを上げにかかると申すは手間のかかるを形容せんためなり、階段を上ること無慮《むりょ》四十二級、途中にて休憩する事前後二回、時を費す事三分五セコンドの後この偉大なる婆さんの得意なるべき顔面が苦し気に戸口にヌッと出現する、あたり近所は狭苦しきばかり也、この会見の栄を肩身狭くも双肩に荷《にな》える余に向って婆さんは媾和《こうわ》条件の第一款として命令的に左のごとく申し渡した、
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