逢《であ》った、女学生が五十人ばかり行列を整えて向《むこう》からやってくる、こうなってはいくら女の手前だからと言って気取る訳にもどうする訳にも行かん、両手は塞《ふさが》っている、腰は曲っている、右の足は空を蹴《けっ》ている、下りようとしても車の方で聞かない、絶体絶命しようがないから自家独得の曲乗のままで女軍の傍をからくも通り抜ける。ほっと一息つく間もなく車はすでに坂を下りて平地にあり、けれども毫《ごう》も留まる気色《けしき》がない、しかのみならず向うの四ツ角に立ている巡査の方へ向けてどんどん馳《か》けて行く、気が気でない、今日も巡査に叱られる事かと思いながらもやはり曲乗の姿勢をくずす訳に行かない、自転車は我に無理情死を逼《せま》る勢でむやみに人道の方へ猛進する、とうとう車道から人道へ乗り上げそれでも止まらないで板塀《いたべい》へぶつかって逆戻をする事一間半、危くも巡査を去る三尺の距離でとまった。大分御骨が折れましょうと笑ながら査公が申された故、答えて曰《いわ》くイエス、
忘月忘日「……御調べになる時はブリチッシュ・ミュジーアムへ御出かけになりますか」「あすこへはあまり参りません、本へ
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