私の経過した学生時代
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)殆《ほと》んど
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)日本語|許《ばか》り
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一
私の学生時代を回顧して見ると、殆《ほと》んど勉強と云う勉強はせずに過した方である。従ってこれに関して読者諸君を益するような斬新《ざんしん》な勉強法もなければ、面白い材料も持たぬが、自身の教訓の為め、つまり這麼《こんな》不勉強者は、斯《こ》ういう結果になるという戒《いましめ》を、思い出したまま述べて見よう。
私は東京で生れ、東京で育てられた、謂《い》わば純粋の江戸ッ子である。明瞭《はっきり》記憶して居らぬが、何でも十一二の頃小学校の門(八級制度の頃)を卒《お》えて、それから今の東京府立第一中学――其の頃一ツ橋に在《あ》った――に入ったのであるが、何時《いつ》も遊ぶ方が主になって、勉強と云う勉強はしなかった。尤《もっと》も此学校に通っていたのは僅《わず》か二三年に止り、感ずるところがあって自《みずか》ら退《ひ》いて了《しま》ったが、それには曰《いわ》くがある。
此の中
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