の発展ばかりめがけている人はないはずです。私のいう個人主義のうちには、火事が済んでもまだ火事|頭巾《ずきん》が必要だと云って、用もないのに窮屈がる人に対する忠告も含まれていると考えて下さい。また例になりますが、昔し私が高等学校にいた時分、ある会を創設したものがありました。その名も主意も詳《くわ》しい事は忘れてしまいましたが、何しろそれは国家主義を標榜《ひょうぼう》したやかましい会でした。もちろん悪い会でも何でもありません。当時の校長の木下広次さんなどは大分肩を入れていた様子でした。その会員はみんな胸にめだる[#「めだる」に傍点]を下げていました。私はめだる[#「めだる」に傍点]だけはご免《めん》蒙《こうむ》りましたが、それでも会員にはされたのです。無論発起人でないから、ずいぶん異存もあったのですが、まあ入っても差支なかろうという主意から入会しました。ところがその発会式が広い講堂で行なわれた時に、何かの機《はずみ》でしたろう、一人の会員が壇上に立って演説めいた事をやりました。ところが会員ではあったけれども私の意見には大分反対のところもあったので、私はその前ずいぶんその会の主意を攻撃してい
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