に傍点]があるなら、それを踏潰《ふみつぶ》すまで進まなければ駄目ですよ。――もっとも進んだってどう進んで好いか解らないのだから、何かにぶつかる所まで行くよりほかに仕方がないのです。私は忠告がましい事をあなたがたに強いる気はまるでありませんが、それが将来あなたがたの幸福の一つになるかも知れないと思うと黙《だま》っていられなくなるのです。腹の中の煮え切らない、徹底《てってい》しない、ああでもありこうでもあるというような海鼠《なまこ》のような精神を抱《いだ》いてぼんやりしていては、自分が不愉快ではないか知らんと思うからいうのです。不愉快でないとおっしゃればそれまでです、またそんな不愉快は通り越《こ》しているとおっしゃれば、それも結構であります。願《ねがわ》くは通り越してありたいと私は祈《いの》るのであります。しかしこの私は学校を出て三十以上まで通り越せなかったのです。その苦痛は無論|鈍痛《どんつう》ではありましたが、年々|歳々《さいさい》感ずる痛《いたみ》には相違なかったのであります。だからもし私のような病気に罹った人が、もしこの中にあるならば、どうぞ勇猛《ゆうもう》にお進みにならん事を希望
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